その部屋のニオイにあなたはもう慣れています。
はじめに
玄関のドアを開けた瞬間、友人が一瞬だけ表情を止めた。
あの数秒の沈黙を、私は今でも覚えています。
犬や猫と暮らしていると、抜け毛やニオイは「そこにあるのが当たり前」の風景になります。
毎日掃除機をかけて、こまめに換気して、消臭スプレーも切らさない。
それでも、来客の鼻はごまかせません。
厄介なのは、床に落ちた毛ではなく、空気の中をふわふわと漂い続けている毛やニオイの粒だという点です。
掃除機は床を吸いますが、空中には手が届きません。
ペットフード協会の調査でも犬猫の飼育頭数は依然として高い水準にあり、住宅の高気密化が進んだことで、室内の空気環境そのものを見直す家庭が増えています。
夏はエアコン、冬は暖房で窓を閉め切る時間が長くなれば、空気は同じ場所をぐるぐると回り続けるだけになります。
そこで選択肢に挙がるのが、ペットとの暮らしを前提に設計された「LG」の空気清浄機、「空気清浄機 AS657DBY0」です。
この製品は、円柱形の本体で360°全方向から空気を吸い込み、ペットの抜け毛やニオイに特化した専用モードを備えたモデルとして登場しました。
ただし、良いことばかりを並べる記事にはしません。
価格、サイズ、そして「今このモデルを選ぶべきか」という点には、正直に言って引っかかる部分もあります。
ブランドの実像から製品の弱点まで、順番に見ていきます。


LGとは
企業詳細
LGという名前を、テレビや有機ELディスプレイのメーカーとして記憶している方は多いはずです。
しかし、この企業の出発点は電機ではありませんでした。
創業者の具仁会(ク・イネ)氏は1947年に楽喜(ラッキー)化学工業社、現在のLG化学を設立し、韓国初の化粧品「ラッキークリーム」を開発・販売しています。
グループの源流をさらに遡ると1935年の「具仁会商店」に行き着き、当初は木綿や絹を扱う布物商売から事業を始め、戦後に化粧品クリームの販売へと転じました。
化粧品クリームを入れる容器を自前で作ろうとしてプラスチック生産に踏み出し、そこから化学メーカーへ、さらに電機メーカーへと連鎖的に事業が広がっていった流れになります。
電子部門としてのLGエレクトロニクスは1958年に株式会社金星社(Goldstar)として創業し、1995年にLG電子へ社名を変更、2008年6月には韓国や中国・台湾以外での社名をLGエレクトロニクスに統一しました。
社名の由来も興味深く、「ラッキー(Lucky)」のLと、金星のローマ字表記および海外市場向け商標「GOLDSTAR」のGを取って「LG」となっています。
つまりLGという2文字は、化粧品と家電という異なる出自が合流した記号です。
製品開発の歩みも段階的でした。
1959年にラジオの組み立て生産を開始し、1962年に電話機、1965年に冷蔵庫、1966年に白黒テレビを製品化しています。
1982年にはアメリカ・アラバマ州にカラーテレビ工場を開設して海外展開を本格化させ、2006年にはビジネスウィーク誌から高い評価を受けるまでに知名度を高めました。
日本企業との距離も近く、2000年には光ディスクドライブ事業を日立製作所と統合し、日立LGデータストレージを設立しています。
現在のグループ構造を見ると、その規模の大きさがはっきりします。
LGグループはサムスン、SK、現代自動車に次ぐ韓国第4位の財閥で、電子機器・化学・情報サービスの3分野を軸に展開しており、韓国最大手の化学メーカーであるLG化学や、2020年に分社化したLGエナジーソリューションを傘下に持っています。
LGエレクトロニクス単体でも世界各国に110拠点を展開し、韓国内32,250人、国外93,000人の従業員を抱える多国籍企業です。
業績面はどうでしょうか。
ここは持ち上げるだけでは意味がないので、数字をそのまま置きます。
2025年通年の売上高は前年比1.7%増の89兆2,009億ウォンで過去最高を更新した一方、営業利益は27.5%減の2兆4,784億ウォンと大きく落ち込みました。
同社はこの結果について、関税の負担や電気自動車の販売停滞という厳しい環境の中で生活家電と電装品が売上を牽引したものの、ディスプレー基板製品の需要回復の遅れ、競争激化によるマーケティング費用の増加、希望退職費用の増加が利益を圧迫したと説明しています。
2025年10〜12月期に限れば1,094億ウォンの営業赤字で、市場予想を大きく下回る結果でした。
売上は伸びているのに利益が細るという構図は、家電業界全体の価格競争の厳しさを映しています。
その中で注目すべきは、生活家電部門の底堅さです。
HS(ホーム・アプライアンス・ソリューション)事業本部は売上高26兆1,259億ウォン、営業利益1兆2,793億ウォンと、一過性の費用を除けば小幅な増益を確保しています。
空気清浄機はまさにこの生活家電の領域にあり、グループ内で最も収益を稼いでいる部門の製品ということになります。
日本市場についても触れておきます。
LGエレクトロニクス・ジャパン株式会社は東京都中央区に本社を置き、2019年2月にファン付き空気清浄機「LG PuriCare」を発表、2022年11月にはペット向けの「LG PuriCare Pet」を発売しました。
この時点ですでに、空気中に舞うペットの抜け毛をスマートモード比で約30倍集塵する「ペットモード」が搭載されています。
日本での販売手法にも特徴があり、後継モデルの「LG PuriCare Pet Gen2」はクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」での先行支援を経て、2025年9月上旬に一般販売という流れを取りました。
大手メーカーが量販店一択ではなく、購入前の熱量を測りながら市場に投入する。
日本の家電市場での立ち位置を、慎重に確かめながら進めている姿勢が読み取れます。
正直に書けば、日本の空気清浄機市場でLGは主役ではありません。
シャープ、ダイキン、パナソニックという国内勢の存在感が圧倒的で、LGは「ペット特化」という切り口で隙間を突いている挑戦者の位置にあります。
ただ、その挑戦者の背後にあるのは、白物家電で世界的なシェアを持つ巨大企業です。
白物家電部門では中国企業との競争が激しい中でも利益を確保できている点が、この会社の強みとして指摘されています。
規模の裏付けがある挑戦者。
それがLGという企業の、日本市場における素顔だと考えます。
★当ブログのオリジナル企業信頼度評価(5つ星評価)
運営体制の明確さ ★★★★★(5.0)
本社所在地、日本法人の所在地と代表者、グループ構造、従業員数まで公開情報で追跡できます。
創業年や社名変更の経緯も一次情報と報道で一致しており、実体の確認に苦労する場面はありませんでした。
市場での評価実績 ★★★★☆(4.5)
白物家電で世界的なシェアを持ち、日本でもテレビやモニターで一定の知名度を確立しています。
一方で空気清浄機カテゴリーに限れば国内メーカーの牙城が厚く、ここは満点にできませんでした。
商品開発の専門性 ★★★★☆(4.8)
ラジオから冷蔵庫、テレビ、そして車載機器へと領域を広げてきた開発の蓄積は本物です。
空気清浄機でもペットモードを世代を重ねて改良しており、思いつきの製品ではないことが分かります。
社会的・文化的な取り組み ★★★☆(3.5)
「Life’s Good」というブランドスローガンを掲げ、日本では蔦屋家電などでの体験展示にも取り組んでいます。
ただし日本国内向けの環境・社会活動の情報発信は、国内大手と比べて拾いにくい印象でした。
財務情報の開示度 ★★★★★(5.0)
四半期ごとの連結決算を事業本部別に公開しており、営業赤字となった四半期の数字も隠さず開示しています。
都合の悪い数字を出せる企業は、それだけで信頼に値します。
総合評価 ★★★★☆(4.6)
歴史、規模、開示姿勢のいずれも高水準で、購入判断において企業リスクを心配する必要はほぼありません。
減点要素は「日本の空気清浄機市場での実績の薄さ」に集約されます。
商品紹介「空気清浄機 AS657DBY0」



商品詳細
色:サンドベージュ(ペットモード搭載モデル)
商品の寸法:34.3奥行き × 34.3幅 × 58.7高さ cm
電源:電源コード式
商品の重量:11.6キログラム
製品名:LG PuriCare Pet Gen2
吸引方式:360°の全方向から花粉やアレル物質を強力に吸引
ペットモード:スマートモードに比べペットの抜け毛を約30倍集塵
ペット臭・ペット由来のアレル物質:99%除去
花粉・浮遊菌:99%除去
生活臭(ペット臭、生ごみ臭、体臭):98%除去
設計:サーキュレーターと空気清浄機の2in1
フィルター構成:3層(①取り外して水洗い可能なプレフィルター ②HEPAフィルター ③光触媒(脱臭)フィルター)
対象範囲:ほこりや花粉、アレル物質から生活臭まで捕集
良い口コミ
「玄関を開けたときの独特のニオイが弱まりました」
「ペットモードにすると、光にかざしたときに舞う毛の量が明らかに減ります」
「サンドベージュが部屋に馴染んで、家電っぽさがありません」
「サーキュレーターを兼ねているので、エアコンとの併用で置き場所が1つ減りました」
「プレフィルターを water で洗えるのが助かります(プレフィルターを水洗いできるのが助かります)」
気になる口コミ
「11.6kgあるので、部屋の模様替えのたびに気合いが要ります」
「円柱形で高さがあり、狭い部屋だと存在感が強すぎます」
「風量を上げるとそれなりの運転音になります」
「フィルター交換のランニングコストが読みにくいです」
「同じ型番系統の新モデルが出たので、買うタイミングを迷いました」
「空気清浄機 AS657DBY0」のポジティブな特色
最大の価値は、「ペット対策」が付け足しの機能ではなく、設計の中心に据えられている点にあります。
一般的な空気清浄機は前面から吸い込む構造が多く、背後や側面の空気は本体の前まで運ばれてくるのを待つことになります。
対してこの製品は円柱形で、360°の全方向から吸引する構造です。
部屋の真ん中に置いても、壁際に寄せても、吸い込む面が常に部屋を向いている状態を保てます。
抜け毛は床だけでなく、人が歩くたびに舞い上がって空中を漂います。
その「舞い上がった瞬間」を捕まえられるかどうかが、体感の差になって表れます。
ペットモードは、スマートモードと比べて抜け毛を約30倍集塵するという数値が示されています。
ここは冷静に見る必要があり、LGの試験は6㎥の密閉空間で本機から20cmの距離に猫の被毛200gを落として測定したもので、試験機関での結果であり実際の空間での実証ではないと同社自身が注記しています。
また、床に落ちた被毛は集塵しない点も明記されています。
それでも「30倍」という数字が意味を持つのは、同じ本体でモードを切り替えるだけで空中の毛への効き方が変わるという設計思想の証明だからです。
3層フィルターの構成も理にかなっています。
第1層のプレフィルターが大きな毛やほこりを受け止め、第2層のHEPAフィルターが細かい粒子を捕らえ、第3層の光触媒フィルターがニオイを分解する。
役割が分かれているため、目の細かいフィルターが毛で目詰まりする事態を避けられます。
そしてプレフィルターは取り外して水洗いできます。
これは地味に見えて、ペット家庭では決定的な差になります。
毎週のように毛が絡みつく部分を、使い捨てにせず洗って戻せるからです。
サーキュレーターとの2in1という点も見逃せません。
空気清浄機は「空気をきれいにする箱」ですが、部屋の空気が動かなければ、きれいな空気は本体の周りに留まったままです。
送風機能を内蔵していれば、清浄した空気を部屋の奥へ押し出せます。
家電を1台に集約できることは、置き場所とコンセントが限られる日本の住宅事情に素直に合致します。
そして、サンドベージュという色。
落ち着いたサンドベージュカラーがインテリアに溶け込むことは、このモデルのリニューアルの主眼の一つでした。
真っ白な家電が並ぶ部屋に、ひとつだけ土の色があるだけで、生活の景色は変わります。
「空気清浄機 AS657DBY0」のネガティブな特色
まず重量です。
11.6キログラムは、成人でも片手で軽々と運べる重さではありません。
季節ごとに設置場所を変える運用を考えている場合、この点は事前に覚悟が必要になります。
次にサイズです。
高さ58.7cm、直径34.3cmの円柱は、6畳のワンルームに置くと明確に存在を主張します。
360°吸引という構造上、壁にぴったり付ける置き方は性能を活かしきれない可能性があり、周囲にある程度の空間を確保する必要があります。
つまり、実際に消費する床面積は本体サイズよりも大きいと考えるべきです。
ランニングコストも慎重に見たい部分です。
プレフィルターは水洗いできますが、HEPAフィルターは消耗品です。
交換頻度と価格は公式サイトで確認してから購入判断をしてください。
本体価格が安く見えても、交換部品の価格次第で総額の順位は入れ替わります。
そして、最も正直に指摘しておくべき点があります。
本機は2025年7月にクラウドファンディングで先行販売され、市場想定価格は89,000円でした。
しかし後継の「LG PuriCare Pet Gen3 AS657DWT2」が2026年6月24日に発売され、市場想定価格は69,900円前後となっています。
Gen3の本体サイズは343×587mm、重量11.6kg、定格消費電力48W、適用床面積61.2㎡と、基本仕様はほぼ共通です。
新しい世代が、より低い想定価格で存在している。
この事実を知らずに定価で本機を買うのは、合理的とは言えません。
本機を選ぶ理由は、サンドベージュという色と、値下がりした実売価格にあると考えます。


他メーカーの商品との比較
比較の前提を先に置きます
空気清浄機の比較は、条件を揃えないと意味を持ちません。
「適用床面積」は日本電機工業会規格(JEM1467)で定められた指標で、規定の粉じん濃度を30分で基準値まで下げられる部屋の広さを意味します。
本機は約37畳相当という位置づけで、リビング向けの大型機に分類されます。
同じ土俵に立つ国内勢
シャープのプラズマクラスター搭載上位機や、ダイキンのストリーマ搭載機が直接の競合です。
ダイキンはフィルターに捕集したペットのフケやアレルゲン、ニオイ成分をストリーマ放電で分解すると説明しており、省電力設計で24時間稼働させやすい点が評価されています。
パナソニックのナノイーX搭載機は、ニオイセンサーがペット臭や調理臭を検知して自動で脱臭モードに切り替える機能を持ちます。
ここが本機の弱点です。
国内勢は「捕集したあとに分解する」独自技術を持ち、フィルター交換頻度を抑える設計思想を採っています。
ダイキンの一部モデルは脱臭フィルターとプレフィルターが交換不要です。
長期のコストで見れば、この差は小さくありません。
では本機はどこで勝つのか
吸引の「面」の広さです。
国内大手の主力機は正面下部と左右に吸引口を配置する構造が一般的で、吸引口を分散させた結果として瞬間的な吸引力が弱まる傾向も検証で指摘されています。
円柱全周から吸う構造は、部屋の中央に置ける環境なら明確な利点になります。
加えて、多くの国内上位機は加湿機能付きです。
加湿タンクは水を入れ、こまめに洗う必要があります。
本機は加湿を持たない代わりに、その手入れから解放されています。
ペットの毛と日々格闘している家庭にとって、手入れ箇所が1つ減る価値は数値以上に大きいはずです。
価格帯での立ち位置
シャープの上位機KI-PX75は実売で58,000円前後の水準です。
本機の想定価格89,000円は、ここと比べると割高に映ります。
一方で後継Gen3は69,900円前後。
ペット特化という一点で選ぶなら本機の設計思想は魅力的ですが、総合力と価格で選ぶなら国内勢が優勢です。
これが忖度なしの結論になります。
まとめ
冒頭の話に戻ります。
友人が玄関で見せた一瞬の沈黙。
あれは「部屋が汚い」というサインではなく、「あなたの鼻がその空気に慣れきっている」というサインでした。
慣れは幸せの一部でもありますが、空気の状態を見えなくする厄介な性質も持っています。
「空気清浄機 AS657DBY0」は、LGがペットとの生活を前提に設計した一台で、360°吸引と洗えるプレフィルターという実用的な武器を持っています。
ただし後継機がより低い想定価格で登場している以上、定価での購入は勧めません。
実売価格を見て、色とサイズが自宅に合うと判断できたときだけ選ぶ製品です。
今日からできる小さな一歩を、ひとつだけ。
いつも閉めている部屋のドアを開けて、5分だけ外の空気を吸ってから戻ってきてみてください。
その瞬間に感じる「あ」という違和感が、あなたの部屋の本当の空気の状態です。
そこから、選び方が変わります。




