災害の夜、最初に困るのは「食べ物」ではありません
はじめに
大きな地震のあと、真っ先に行き詰まるのは空腹ではなく、トイレだと言われます。
意外に感じるかもしれません。
けれど、断水で水洗トイレが使えなくなった場面を想像してみてください。
おなかは一晩くらい我慢できても、トイレは数時間も待ってくれません。
2024年の能登半島地震でも、断水の長期化が避難生活の大きな負担として繰り返し報じられました。
南海トラフ地震臨時情報が初めて出された夏を覚えている方も多いはずです。
あのとき、慌ててホームセンターの防災コーナーをのぞいた方もいるのではないでしょうか。
そして、買った防災リュックをクローゼットの奥にしまったまま、どこに置いたか思い出せない。
正直に言えば、筆者もその一人でした。
そこで今回取り上げるのが、仙台に本社を置くIRISOHYAMA(アイリスオーヤマ)と、同社の「防災リュック1人用33点BRS-33」です。
東日本大震災で自らも被災したメーカーが、どんな考えで防災用品を手がけているのか。
そして、このリュックには何が入っていて、何が足りないのか。
良いところも気になるところも、遠慮せずにお伝えします。


IRISOHYAMAとは
企業詳細
大阪の小さな町工場から始まった会社
IRISOHYAMAの出発点は、華やかな家電メーカーではありません。
1958年4月、大山森佑氏が大阪府布施市(現在の東大阪市)で「大山ブロー工業所」を創業したのが始まりです。
プラスチックを成形する、社員数名ほどの下請け工場でした。
転機は早く訪れます。
1964年7月に大山健太郎氏が代表者に就任しました。
創業者である父の急逝を受け、19歳で経営を引き継いだという話は、同社を語るうえで欠かせないエピソードです。
1966年にはオリジナル商品の第1号となる養殖用ブイを発売し、1971年に資本金300万円で大山ブロー工業株式会社を設立しています。
下請けから「自社ブランド」のメーカーへ
その後、同社はオイルショックの荒波をかぶります。
公式の沿革では、オイルショックを乗り越えて業態転換し、園芸用品で需要を創り出してガーデニングブームを牽引したと振り返っています。
下請けのままでは値下げ競争に巻き込まれる。
その危機感が、自社で企画して売る会社への転換を後押ししたと考えられます。
そして大きな決断が、本社の移転でした。
1989年、本拠地を政令指定都市になって間もない仙台に移転しています。
1991年9月には商号をアイリスオーヤマ株式会社に変更しました。
中身が見える「クリア収納ケース」は、片付けの概念を変えたといわれるヒット商品として知られています。
強さの正体は「メーカーベンダー」という仕組み
IRISOHYAMAを理解するカギは、「メーカーベンダー」という言葉です。
少し硬い言葉なので、平たく言い換えます。
工場で作る「メーカー」と、お店に卸す「問屋」の役割を、一社でまとめて担う仕組みのことです。
製造だけでなく物流から販売までも手がけるため、売り場の声がすぐに開発へ届きます。
この仕組みが、同社のスピード感を支えています。
採用情報では、開発期間は最短3ヶ月で、毎週月曜のプレゼン会議で開発商品を即断即決すると紹介されています。
年間1,000点以上の新商品を開発し、取り扱う商品数は30,000点という規模です。
商品づくりの考え方は「ユーザーイン発想」と呼ばれ、開発コンセプトはSRG(シンプル・リーズナブル・グッド)とされています。
英語が並びますが、日本語にすれば「わかりやすく、手頃で、ちゃんと良いもの」という意味合いです。
具体例として分かりやすいのがLED電球(発光ダイオードを使った電球)です。
アルミ製が常識だったボディをプラスチックに変えて大幅な値下げに成功し、従来の3分の1の価格となる1,980円で発売したとされています。
町工場時代から磨いてきたプラスチック技術が、家電の世界で武器になった好例です。
現在の会社の規模
公式の会社概要によると、資本金は1億円、従業員数は6,303名(2026年1月)、単体の売上高は2,458億円、グループ売上高は7,949億円(いずれも2025年度)です。
創業者の大山健太郎会長から2018年に経営のバトンを受け取った大山晃弘社長のもとで、食品やヘルスケア、ロボットなどへ事業を広げています。
工場網も大きく、社長インタビューでは関連会社を含め国内外37工場を展開していると語られています。
「被災企業」としての防災への向き合い方
今回の防災リュックを考えるうえで、最も大切なのがこの部分です。
仙台に本社を置く同社は、2011年の東日本大震災を当事者として経験しました。
同社の防災に関するコラムでは、以前から家具転倒防止用品などを扱っていたものの、東日本大震災が大きな契機となり、防災用品のラインアップを大きく広げたと説明しています。
当時社長だった大山健太郎氏が復興庁の復興推進委員を務めていたことも、東北の復興支援に力を入れた背景として挙げられています。
復興への関わりは、防災用品だけにとどまりません。
2013年4月、農業生産法人の舞台ファームと共同出資で精米事業の会社「舞台アグリイノベーション株式会社」を設立しました。
当時の舞台ファームは津波で農地の3分の2が浸水し、倒産寸前だったといいます。
被災地の亘理町に亘理精米工場を設立し、約70人を雇用したことも報じられています。
なお、この会社は2025年1月にアイリスアグリイノベーション株式会社へ社名を変更しています。
生活用品の会社がお米を売る。
一見ちぐはぐに見える動きの根っこには、被災地の雇用と農業を守りたいという意思がありました。
忖度なしで見ておきたい点
一方で、良い話ばかりではありません。
取り扱う商品が膨大である以上、不具合がゼロとはいきません。
たとえば2021年には「インバーター発電機IGG-1600」で部品の不具合により燃料が漏れる恐れがあるとして自主回収を行いました。
2025年には「USB電気毛布」で、組立の不具合からヒーター線がショートし異常発熱する恐れがあるとして自主回収を告知しています。
防災用品に近い発電機でも回収が出ている点は、率直に押さえておくべき事実です。
ただし、こうした情報を公式サイトで公開し、回収と返金の流れを示している点は、誠実な対応として評価できます。
もう一つ、同社は防災の専門メーカーではありません。
収納用品から家電、食品まで幅広く手がける総合メーカーです。
防災用品は数ある事業の一つであり、防災に特化した専門ブランドと同じ深さを期待するのは筋違いかもしれません。
★当ブログのオリジナル企業信頼度評価(5つ星評価)
運営体制の明確さ ★★★★★(5.0)
所在地や資本金、従業員数、代表者が公式サイトで明確に公開されています。
創業から70年近い沿革もたどれるため、実体の見えない販売元とは比べものになりません。
市場での評価実績 ★★★★☆(4.5)
グループ売上高は7,000億円台に達し、生活用品の分野で国内有数の規模を持つ企業です。
収納ケースやLED電球など、市場を広げたヒット商品の実績も豊富です。
商品開発の専門性 ★★★☆(3.5)
スピード開発と生活者目線の商品づくりは大きな強みです。
一方で防災専門メーカーではなく、発電機や電気毛布で自主回収も出ているため、評価はやや控えめにしました。
社会的・文化的な取り組み ★★★★☆(4.5)
被災企業として防災用品を拡充し、精米事業で被災地の雇用と農業を支えてきた歩みは説得力があります。
言葉だけでなく、工場と雇用という形で復興に関わった点を高く評価します。
財務情報の開示度 ★★★☆(3.5)
株式を公開していない企業のため、上場企業ほど詳しい決算資料は見当たりません。
それでも単体とグループの売上高を毎年公表しており、非上場企業としては開示に前向きな部類です。
総合評価 ★★★★☆(4.2)
町工場から出発し、震災を経験した東北の企業として防災と復興に向き合ってきた点は信頼に値します。
ただし総合メーカーゆえの品質のばらつきはゼロではないため、商品ごとに中身を確かめる姿勢は持っておきたいところです。
商品紹介「防災リュック1人用33点BRS-33」



商品詳細
- セット名:33点セット
- 個数:33
- 材質:アルミニウム、ゴム
- 商品寸法(長さ×幅×高さ):32×16×43cm
- 商品サイズ:幅約32×奥行約16×高さ約43cm
- 商品の重量:1.97キログラム
- 梱包サイズ:58×58×43cm
- 原産国:日本
- セット内容:携帯用トイレ・ポリ袋・ラバー手袋・圧縮袋・布テープ・2WAYドライバーカッターナイフ・お薬ケース・ポーチ・筆記用具セット・ルーペ・防水スマホ袋・使い捨て下着
良い口コミ
「届いてすぐ玄関に置けるのが気楽です。一から自分で揃えようとして、結局何も買わずに終わっていた私にはちょうどよかったです。」
「携帯用トイレが入っているのを見て、そこまで考えてくれているのかと安心しました。」
「2kg弱なので、母でも背負えそうです。重すぎる防災リュックは持ち出せないので、この軽さはありがたいです。」
「防水スマホ袋と筆記用具が入っているのが地味に助かります。連絡先を書き留めたり、雨の中でスマホを守ったり、使う場面がすぐに想像できました。」
「アイリスオーヤマの商品なので、聞いたことのない販売元よりは問い合わせ先がはっきりしていて安心感があります。」
気になる口コミ
「中身を全部出して確認したら、水や食べ物は自分で足す必要があると感じました。これ一つで完結するわけではありません。」
「梱包の箱が思ったより大きくて驚きました。一人暮らしの部屋だと、届いた日に置き場所に困ります。」
「33点と聞くと多く感じますが、ポーチや筆記用具のような小物も1点に数えられているので、点数ほどの豪華さは感じませんでした。」
「商品ページの材質表記がアルミニウムとゴムになっていて、リュック本体の生地がよく分かりません。雨の日にどこまで耐えられるのか不安です。」
「ルーペが入っている理由がよく分かりませんでした。人によっては使わない物も入っていると思います。」
「防災リュック1人用33点BRS-33」のポジティブな特色
一番の魅力は、避難所で本当に困ることに目が向いている点です。
冒頭で、災害の夜に最初に困るのは食べ物ではないとお伝えしました。
その答えがトイレです。
BRS-33のセット内容には、携帯用トイレがしっかり入っています。
断水で水が流せない状況でも、まずは用を足す手段を確保できます。
ポリ袋やラバー手袋が一緒に入っているのも、後片付けや衛生を考えると理にかなっています。
次に、「生活を立て直す道具」が入っている点です。
布テープは、割れた窓をふさいだり、名前や伝言を書いて貼ったりと使い道が広い道具です。
2WAYドライバーやカッターナイフは、壊れた家具の応急処置や段ボールの加工に役立ちます。
圧縮袋があれば、限られたリュックの中に着替えを詰め込めます。
派手さはありませんが、避難生活が長引くほど効いてくる道具ばかりです。
三つ目は、小さな困りごとへの気配りです。
お薬ケースがあれば、普段飲んでいる薬を数日分まとめて持ち出せます。
防水スマホ袋は、雨の中の避難で連絡手段を守る大切な道具です。
使い捨て下着は、着替えがままならない時期に清潔を保つ助けになります。
ルーペは一見不思議に感じますが、細かい字の薬の説明書や配布物を読む場面を考えると、年配の方には心強い存在です。
そして、重さが1.97kgに収まっている点も見逃せません。
防災リュックは、重すぎると持ち出す前に心が折れます。
幅約32×奥行約16×高さ約43cmというサイズは、玄関のすみや靴箱の横に置きやすい大きさです。
2kgを切る重さなら、ペットボトルの水や食料を自分で足しても、背負える範囲に収めやすくなります。
「完成品を買う」のではなく「土台を買って、自分用に仕上げる」リュックとして考えると、この軽さは大きな長所になります。
「防災リュック1人用33点BRS-33」のネガティブな特色
まず、中身の全体像がつかみにくい点です。
商品説明で確認できるのは、セット内容のうち21番から33番までです。
1番から20番に何が入っているかは、購入前に販売ページや商品本体で必ず確かめてください。
水や食料、ライト、ラジオが入っているかどうかで、自分で買い足す物が大きく変わります。
次に、表記の分かりにくさがあります。
材質が「アルミニウム、ゴム」と書かれていますが、リュック本体の生地が何なのかは読み取れません。
防水なのか撥水なのかも分かりません。
また、33点のセットなのに付属コンポーネントが「無し」と表記されている点も、読み手を戸惑わせます。
原産国の「日本」という表記も、どの工程を指すのかまでは説明がありません。
三つ目は、梱包サイズの大きさです。
本体が幅約32cmなのに対し、梱包は58×58×43cmと表記されています。
届いた箱の大きさに驚く可能性があるので、受け取る場所は空けておくと安心です。
最後に、点数の数え方です。
ポーチや筆記用具のような小物も1点として数えられています。
「33点」という数字だけで、他社の30点セットより中身が充実していると判断するのは早計です。


他メーカーの商品との比較
比較の前提
防災リュックは、点数よりも「何が入っていて、何を自分で足すか」で選ぶべき商品です。
ここでは、1人用で価格帯や方向性の近い商品と比べます。
山善「防災バッグ30点セット」との比較
最も近いのが、山善(YAMAZEN)の防災士監修モデルです。
通常18Lタイプは幅32×奥行16×高さ43cmで重量約1.97kg、原産国は中国と紹介されています。
寸法と重量が、BRS-33の表記と一致しています。
さらに、山善の同シリーズの内容には2WAYドライバー、ミニカッターナイフ、圧縮袋、筆記用具セットなどが含まれており、BRS-33と顔ぶれがよく似ています。
同じ仕入れ元なのかどうかは、公開情報からは判断できません。
ただ、似た構成の商品が他社にもある以上、ブランド名だけで選ぶ理由は薄くなります。
BRS-33が優れている点は、点数が3点多いことと、原産国が日本と表記されていることです。
一方で山善は防災士が監修したことを明示しており、監修者の情報はBRS-33の商品詳細からは確認できません。
ここは山善に分があります。
山善の防水タイプとの比較
同じ山善には、防水仕様の軽量モデルもあります。
比較サイトでは、容量12L・重量約1.5kgと軽量コンパクトで、リュックと肩掛けの2WAYに対応と紹介されています。
ただし水・食料・ラジオ・絆創膏は含まれていないとも指摘されています。
軽さと防水性ではこちらが上です。
BRS-33は生地の防水性能が表記から読み取れないため、雨の中の避難を重視する方には不利になります。
LA・PITA「防災セットラピタプレミアム1人用」との比較
中身の充実度を重視するなら、LA・PITA(ラピタ)が比較対象になります。
ターポリン生地や止水ファスナーを採用した防水リュックで、国内産の保存水やアルファ米、防災エアーマットを標準装備しています。
価格は公式通販で19,980円(税込)です。
水と食料まで最初から揃い、防水性も明確な点は、BRS-33より明らかに優れています。
その代わり価格は高めで、中身が多い分、重さも増えると考えられます。
比較から見えるBRS-33の立ち位置
BRS-33は、衛生用品と生活道具を中心にした軽めの土台セットです。
水と食料まで一式揃えたい方、防水性を最優先したい方には、ラピタのような上位セットのほうが向いています。
反対に、中身を自分好みに足していきたい方、身近なメーカーの商品を選びたい方には、BRS-33は十分に候補になります。
購入前には、1番から20番の中身と、山善の同寸法モデルの価格を並べて確認することをおすすめします。
まとめ
災害の夜、最初に困るのはトイレです。
IRISOHYAMAの「防災リュック1人用33点BRS-33」は、その現実にきちんと目を向けたセットでした。
東日本大震災を当事者として経験した会社らしく、携帯用トイレや使い捨て下着など、避難所の細かな困りごとに手が届いています。
ただし、これ一つで完璧というわけではありません。
水や食料、常備薬は、自分の暮らしに合わせて足していく必要があります。
防災リュックは、お守りのように置いておくだけでは役に立ちません。
9月の防災月間が過ぎ、気持ちが少しゆるみ始める今こそ、見直すのにちょうどいい時期です。
今日の夜、手元の防災リュックを一度開けて、中身を床に並べてみてください。
それだけで、「もしも」の日の自分が、きっと少し楽になります。




